2025/11/24
「AIはズルじゃない」──エコノミスト・崔真淑が語る、AI格差を乗り越える方法

「AIを使うのはズルじゃない。堂々と使っていい」──エコノミストとして活躍する崔真淑さんは、力強くそう語ります。
複数の企業で社外取締役や顧問を務め全国で講演活動を行う傍ら、3歳のお子さんを育てる母でもある崔さん。「AIがないと家庭も仕事も回らない」というほどAIをフル活用している崔さんに、企業のAI導入の現状や格差の問題、また女性特有のAI活用の心理的ハードルとその乗り越え方について伺いました。
<プロフィール>
ファイナンス研究者/エコノミスト 崔真淑(さい・ますみ)
専門はコーポレート・ファイナンスで、ジェンダーとコーポレート・ガバナンスの交差領域でも研究・執筆。株式会社グッド・ニュースアンドカンパニーズ代表取締役、上場企業の社外取締役。AbemaTV、NHK「日曜討論」、テレビ朝日「報道ステーション」、フジテレビ「Live News α」などで経済解説を務める。代表論文に、京都大学・山田和郎准教授との “Does Passive Ownership Affect Corporate Governance? Evidence from the Bank of Japan's ETF Purchasing Program”都市と地方で広がる、企業のAI導入格差

ーー現在の活動について教えてください。
エコノミストとして、コーポレートファイナンスを専門にしています。現在は複数の企業で社外取締役や顧問をしており、経営者の方とお話しする機会が非常に多いですね。中小企業から大企業まで、幅広い企業の経営課題に向き合っています。
また、全国各地で講演活動も行っています。東京のような大都市圏だけでなく、地方の製造業や建設業、第一次産業の企業を訪問しています。
ーー地方から都市部までさまざまな業種の企業を訪問される中で、企業のAI導入についてはどう感じていらっしゃいますか?
都市部では、中小企業も大企業も「導入しないと」という焦りはあると感じます。東京の大企業や、IT・テック系のスタートアップは導入が進んでいますね。
非常に温度差を感じるのは地方です。地方で講演をすると、特に第一次・第二次産業が多い地域では、「ChatGPT使ってますか?」と聞いてもみんなぽかんとされるんですよね。
第三次産業や一部の製造業の企業では、「テクノロジーを活用していかないと!」という危機感を持っている企業もありますが、多くは「それ、うちに関係あるの」という反応で、導入のムーブメントがほとんどありません。
ーーAI導入の波は、まだまだ都市部が中心ということですね。
そうですね。ただ都市部のAI導入済みの企業でも、活用できている企業とそうでない企業の格差が大きいです。「導入したけど使われない問題」がかなり多発していると感じます。
メールひとつ書くにしても「自分でやったほうが早い」という思い込みがあったり、良いお手本が社内で共有されていなかったり。導入後のフロー設計がセットになっていないことがネックになっているのだと思います。
「ズルしちゃいけない」が、女性をAIから遠ざける

ーーでは、性別によるAI活用の格差を感じることはありますか。
非常に感じます。「AIを使っている」という日本人女性は男性の半分くらいというデータがあるのですが、日本の場合、「女性は非正規雇用が多いからそうなるのかな」と最初は思っていたんです。しかし実は、アメリカやヨーロッパでも同じような研究結果が出ており、「同じ学歴・同じ職種でも、優秀な女性ほど男性よりAIを使っていない傾向がある」と報告されています。
なぜなら、女性の方が「ちゃんとしなさい」「ズルするな」と言われて育つ機会が多いから。AIがまだ完全に浸透していない今の段階だと、「AIを使うのはチート」「努力を怠っているし」と感じやすいという内容でした。
これは女性に話すと非常に共感されるのですが、男性に話すと「え?」という顔をされることが多いですね。
ーー崔さんご自身もそのような感覚を持たれたことがあるのでしょうか。
私自身もいかにもAIっぽい出力は消したり直したりすることもあったので、「AI使っています」と堂々と言いづらい気持ちはよくわかります。
でもある時、東京大学の先生と仕事をしていて、「これAI使っていいんですか?」と聞いたところ「バンバン使って!」と言われて。「あ、いいんだ」と思ってからはアウトプットも早くなり、質問力も上がった実感があります。
社内でも社会全体でも、「AIを使っていいんですよ」と背中を押してあげることが、女性には特に大事なのかなと思います。
エコノミスト×母として、AIとともに生きる日々

ーー仕事だけではなく、日常生活でもAIを活用されていますか。
はい、もはや家庭もAIがないと回らないくらい使っています。
例えば、夫婦関係で困って一度頭の中を整えたいときに「心理学のエビデンスに詳しい臨床心理士として答えてください。私は今こういうことで悩んでいます。夫にどう言えばいいですか?夫のこの発言は深読みしなくていいですか?」と聞いたりして。
すると、AIがエビデンス付きで「これは人間のこういう傾向です」と説明してくれます。科学的な裏付けがあると「じゃあしょうがない」と諦めがつくので、感情だけでは消化できないことを理性で納得させるために使っている感じですね。
ーー夫婦関係でもAIを活用できるんですね!他にはどのような場面で使われていますか。
子育てでも使います。山ほどある教育系のYouTubeをつい見てしまって、情報過多になったとき「あなたは教育学者です。今こういうことで悩んでいます。研究者として答えてください」と聞くと、自分の意思決定の確認ができます。
旅行先を決めるときにも使いました。去年の夏、石垣島に行くかチェジュ島に行くかで非常に悩んだんです。海の美しさなら石垣島だけど、海外に行く経験という観点ではチェジュ島だな、と。
そこでAIに「娘の発育にとってどちらが良いか、教育学の知見から教えてください」と聞いたら、「その年齢なら五感に響く経験のほうがいい」という説明が出てきたので「じゃあ海がきれいな石垣島にしよう」と決めました。
ーー仕事でも家庭でもAIを使いこなされていますね。そんな崔さんが思う、「AIを使いこなすために必要なこと」は何でしょうか。
「いい問いを立てられるか」が非常に重要だと感じます。
2024年に経済産業省系の研究所が出したワーキングペーパーによると、学歴によってAIの使いこなし方に大きな差が出ていたんです。中卒・高卒・大卒と上がっていって、大学院卒になるとさらに一段上がる。論文を書くときの「自分で仮説を立てる」という訓練をしている人は、AIにも良い質問を投げやすいからではないかと私は推測しています。
つまり結局、AIを使いこなせるかどうかは「いい問いを立てられるか」にかなり依存していて、そのためには前提知識が必要です。「学歴社会は終わる」と言われながら、現状はむしろ逆のことが起きているのが面白いところですね。
ーーいい問いを立てるために、日頃から意識できることはどんなことでしょうか。
まずニュースを読むときなど、自分が「これは正しい」と思っても、「反対の意見を言っている人はいないか?いるとしたらどんな意見か?」をチェックする習慣ですね。研究者は常に「それは本当に正しいの?」と問う仕事ですし、優秀な経営者も常に問いを立てています。
それからもう1つは、AIに質問できるだけの土台の知識を持っておくこと。「この分野なら私は負けない!」という専門領域をちゃんと作っておくと、AIに対してもいい問いを投げやすくなります。
AI時代、女性の自立と選択肢を広げるために

ーーAIの進化は、日本経済や働き方・生産性にどう影響すると見ていますか。
生産性を上げるのはもちろんですし、全体としてはプラスの側面のほうが大きいと思っています。よく「AIで失業が増える」と懸念されたりしますが、現時点では世界的にも日本でも雇用者数は増えています。なので「AI失業がすでに起きている」という状況ではありません。
ただ、AIは格差を広げる可能性がある、というのは危惧しています。スキルを持っている人と持っていない人、AIを使いこなせる人と使いこなせない人の格差。さらに、男女の格差も深刻だと思っています。
ーーWomen AI Initiative Japanの理念について、どのようにお考えですか。
「100パーセント賛同!」しています。私自身がまさにそういう団体を求めていたので驚きました。今回お話した通り、今はAI格差が広がりつつあるタイミングで、しかも女性のほうが置いてけぼりになりやすいというデータもある。
そこに対して「じゃあどうする?」を提供してくれる存在として、非常に意味があると思っています。
また女性が金銭的にも精神的にも自立することで、家庭内暴力が減るなどの研究はたくさんあるんですよね。自立とは依存先を分散させて選択肢を増やすことなので、人生の自由度が上がって窮屈さが減ります。
Women AI Initiative Japanには、自立して自由を得たい女性の味方になる発信や政府への提言などを強化していってほしいですし、私も期待しています。
わたしのAIライフスタイル診断
ーー「わたしのAIライフスタイル診断」も受けてくださったとのことで、結果と感想を教えてください。
とても面白かったです!私の結果は「心地ワーク羊」でした。
自分が求めているAIの使い方がわかるだけでなく、自分がどういう働き方をしたいかが可視化されますし、考えるきっかけになりますね。
診断を受けながら、子どもが生まれる前と今だと結果は全然違ったのだろうと感じました。転職や家族構成が変わるタイミングなど、状況や心境の変化があるときに適宜診断をしていくのもいいと思います。無料ですしね!
わたしのAIライフスタイル診断はこちらから

Women AI Initiative Japanは、AI時代を生きるすべての女性が自分らしくキャリアを築き、可能性を広げるためのコミュニティです。最新のAI活用事例やキャリアストーリーを共有し、共に学び、成長する場を提供しています。
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取材 新島 麻生/執筆 平 理沙子/編集 Naoko Kubota




