「有能なADが右腕についた感じ」AIをアシスタントに、大型企画を実現するNewsPicks Studios 木嵜綾奈のクリエイティブ術

音楽業界での営業職からキャリアをスタートし、テレビ東京NY支局のディレクターを経て、妊娠を機に一度キャリアを離れながらも、現在はNewsPicks Studiosの取締役およびエグゼクティブプロデューサーとして活躍する木嵜綾奈さん。

イベントや動画コンテンツの制作など、数々の大型企画をAIと二人三脚で実現し、AIを「有能なAD」と語ります。クリエイティブの現場では、どのようにAIを活用しているのか。そして、ライフステージに応じてキャリアの再構築が必要となることが多い女性へのメッセージをお聞きしました。

<プロフィール>
NewsPicks Studios 取締役/Executive Producer 木嵜綾奈

NewsPicksのレギュラー番組統括。「The UPDATE」MC、「OFFRECO.」、「2040 未来からの提言」、「2 Sides」、「EduPassion」等を立ち上げる。早稲田大学卒業後、東芝EMI 営業部、洋楽部でメディア・プロモーションを担当。2008年に渡米、テレビ東京NY支局のディレクターとして、イーロン・マスク氏取材やIT企業を取材。Forbes Japanの取材ではドリーマーズ・ファンドに関する記事を共同執筆。2024、2025 ACCクリエイティブ・イノベーション審査委員長、2023 ACCブランデッド・コミュニケーション審査員、EVIDENCE AWARD 2024、2025審査員、BRANDED SHORTS 2023審査員。

変化を恐れない──音楽業界からメディアの最前線へ

ーーこれまでのキャリアについて教えてください。

新卒では音楽業界に入社し、CDを売る営業をしていました。その後テレビ東京NY支局でも勤務しました。現在はNewsPicks Studiosで取締役・エグゼクティブプロデューサーとして、イベントやサブスクリプションコンテンツ、スポンサードコンテンツの制作など、多岐にわたる業務を担当しています。

私が入社した時は制作が3人ほどしかいない会社でしたが、4〜5年でスケールし、今では外部委託の方や出向者、セールス、技術、マーケティングを含めると100人以上のステークホルダーが所属するチームになりました。

ーー現在、NewsPicks StudiosではどのようにAIを活用されていますか。

NewsPicks Studiosをはじめとしたユーザベースグループでは、全社的にAI活用を進めています。複数の汎用AIツールを会社として使えるようにしていて、会議の議事録作成をはじめ、日常業務の中でもかなりAIに頼っています。

また、自社プロダクトとして「Speeda AI Agent」というAIエージェントの開発もしています。社長が元々エンジニアなので取り入れるのが早く、多くの部門でAIを活用していますね。AIコンテンツ生成コンテストを社内で開催したりもしています。

特に企画チームは、AI活用率が高いですね。クライアントコンテンツでは「どういうことを伝えたいか」という要件が決まっているので、それを入力して企画や台本、ドラフトを作成しています。以前は人がやった方がいいと思われていた作業も、今は全部AIに任せた方が早いと感じます。

ーー新しいものを積極的に取り入れる社風が根付いているのですね。木嵜さん個人としても、AIを活用される場面は多いですか?

はい、使い倒しています。私自身、テレビ東京のNY支局にいた時もシリコンバレーの新しいアプリを積極的に取材したり、試したりと、新しいアイデアがすごく好きなんですよ。

初めてiPhoneが出てきた時も、私は抵抗なく受け入れました。幼少期に父がカナダやイギリスに毎年連れて行ってくれた影響もあるかもしれません。アメリカは変化の速度がとても速く、消えていくのも早い。それを見ていると自分も最先端にいたいと思いますね。

ーー一方で、日本のテクノロジー導入についてはどう感じていますか。

正直、日本は3年遅いと感じています。例えばポッドキャストも、アメリカでは7~8年前から流行っていますが、日本はようやく来ているという感じです。Metaグラスもアメリカではみんな使っていてすごくバズっていますが、日本ではまだ公式からは未発売。手に入れようとすると、メルカリで5万円する場合もあるそうです。

諸事情があり日本ではまだ未発売なのだと思いますが、一番最初にテクノロジーに触れられない国になっているのは、非常にまずいことだと思います。だからこそ、個人としても最先端に早くキャッチアップしなければと意識しています。

「有能なAD」であるAIとともに、大型企画を一人で実現

ーー仕事でもAIを使われる場面が多いとのことですが、特に印象的だったAI活用の事例はありますか。

2025年の夏に、『サピエンス全史』著者で歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリさんと宇多田ヒカルさんの「AIの進化と創造性」をテーマにした対談を企画したのですが、私が一人でAIと壁打ちして企画書を作りました。

スピードが最も重要だったので、ADやディレクターを交えて議論しながら作って工数をかけるよりは、企画への特別な思いがあり、意図も十分に理解している私がまずAIをアシスタントとして企画書を作ってみた方が良いと思ったのです。

そこでAIに「こんなテーマで企画を作るのはどう?」と聞いたら、すぐにいろんなアイデアが出てきて。最終的に手直ししたりはしましたが、面白い企画書を生み出してくれました。

ーーこれほどの大型企画をAIとの壁打ちで一人で作られたんですね!

さらに、今回は英語の企画書も必要だったので、英語版も作成しました。

それまでは毎回アメリカ人のネイティブスピーカーに全部英語チェックをしてもらっていたのですが、AIが素晴らしかったので、こちらも一人で進められました。しかも「問題ない」にとどまらず、感動するレベルで。

今まで通り私の知恵で企画を考えて、英語チェックに入ってもらって、ちゃんと添削して作るという本来の工程より、かなり時間を削減しながらも、誰しもが納得できるレベルの企画が実現できる。AIの力は、本当にすごいと感じています。まるで、「有能なAD」が右腕になった感覚かもしれません。「これ作っておいて」と頼めますし、人間が考えつかない場面でクリエイティビティを出してくれますから。

ーークリエイティビティもある意味人間の力を凌駕している、ということですね。

例えば、大阪・関西万博での落合陽一さんのパビリオンで流れていたテーマソングで、「さようならホモサピエンス」(歌:AI inspired by 三波春夫、作詞:落合陽一+AI、作曲:AI)という歌があるのですが、落合さんとAIが作詞し、AIで作曲したものなんです。演歌調のとてもいい曲で、私もすごくハマってしまいました。「賢さなんてただのおまけ」という歌詞があるのですが、「これはなかなか人間が書けない歌詞だ!」とクリエイティビティを感じワクワクしました。

とはいえ一方で、クリエイターとしては脅威も感じています。これも落合さんと話したのですが、対談すらAIで作れてしまう時代です。エンタメで「みんなが笑える」で済めば良いのですが、ニュースを制作する責任ある立場からすると、どんどん巧妙になっていくフェイクニュースとどう戦うかは大きな課題です。

私自身、本来は「生(なま)」こそが面白さだとも思っていて。例えば、番組でご一緒している加藤浩次さんのツッコミは本当にすごくて、どんどん切り込むから見ているこちらがドキドキします。AIも完璧な受け答えはできると思いますが、あのスリリングな面白さはきっと生み出せません。

AIがあったら仕事を続けられたかもしれない。AIを味方に、女性が再び挑戦できることを願って

ーーWomen AI Initiative Japanのアドバイザーに就任された背景を教えてください。

実はアメリカでテレビの仕事をしていた時、妊娠をきっかけに仕事を辞めたんです。取材、足で稼ぐ営業、長時間拘束、体力仕事──どれも妊娠中の私には難しいものでした。 

クリエイティブ領域でやりたいことがある、それなのに外的な理由で続けられない。過去の私のような女性は、まだまだ多いと思います。 でも、当時AIがアシスタントのように仕事を手伝ってくれていたら、私も続けられていたかもしれない。

そう考えると、もっと多くの女性にAIを活用してほしいし、同じ思いをする人を減らしたい。そんな気持ちで、今回アドバイザーに就任させていただきました。

ーー女性特有の悩みに対して、AIはどのような可能性があると思いますか。

孤独を和らげてくれる存在になると思います。子育ての悩みをAIに聞くのもいいですし、不安や孤独な時に気軽に相談できる相手がいるだけで安らげますよね。AIは回答するのも早いですし。

アメリカで子育てをしていた時、授乳がうまくいかず、子どもが痩せてしまった時期があったんです。その時は本当にどうしていいかわからなかったのですが、当時AIがあれば「どうしたらいい?」と聞けて安心したと思います。女性って、一人で思い詰めてしまうことや、人には聞きづらい悩みもたくさん抱えてますからね。

ーーWomen AI Initiative Japanに期待することを教えてください。

先ほどお話ししたような、外的な理由でキャリアを諦めざるを得なかった女性が、AIを味方につけて再び挑戦できるようになってほしいと思います。

そして女性だけに留まらず、性別関係なくAI活用を広めていけたらいいですね。AIは誰にとっても可能性を広げるツールです。みんなで一緒にスキルアップしていけるコミュニティになることを期待しています。

わたしのAIライフスタイル診断

ーわたしのAIライフスタイル診断の結果についてもぜひ教えてください。

「心地ワーク羊」でした!

診断を行うことで、自分の働き方、そしてなぜ働いているのかを振り返るきっかけになりました。「やるときはやる」は私の思いを反映していて、好きな言葉です。

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Women AI Initiative Japanは、AI時代を生きるすべての女性が自分らしくキャリアを築き、可能性を広げるためのコミュニティです。最新のAI活用事例やキャリアストーリーを共有し、共に学び、成長する場を提供しています。

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取材 新島 麻生/執筆 平 理沙子/編集 Naoko Kubota